『変身物語(Metamorphoses):転身譜』

『変身物語(Metamorphoses):転身譜』は
オウィディウスがラテン文学において
ギリシア神話を集大成した詩集で
そういう意味では正統派ギリシア神話ではナイ

著者のオウィディウスは
第2回三頭政治(※)の頃~
初代皇帝アウグストゥスの時代の人なので
専ら恋愛を中心とした娯楽的要素を重視しつつ
アウグストゥスに正統性を・・・
むしろ神性をも付与するために書かれてる点では
ウェルギリウスの『アエネーイス』に同じく
即ち、古代ギリシア由来の神々と英雄の系譜に
アウグストゥスまでが継ぎ足されてるのだ
※アントニウス、レピドゥス、オクタウィアヌスによって結成

ちなみにウェルギリウスは
オウィディウスと同時代だが年長である

岩波文庫では上下巻に分かれてるが
全15巻を上巻に1~8、下巻に9~15が収録され
上下巻で計737ページと
なかなかのヴォリュームだけあって
ギリシア神話を網羅してる感があるるる~

巻の間でも隙がなく話が連続してて
一気にも読めるし、拾い読みもまた愉しく
索引がナイが詳細な人名の目次なので
辞典的な使用も可だ

巻10はオルペウス(オルフェウス)に始まり
キュパリッソス、ガニュメデス、ヒュアキントス
そしてアドニスと続くので
美少年譚はほぼまとめて読める構成も
自分的に気に入ってるるる~
「ほぼ」なのは
ナルキッソス(ナルシス)だけが巻3なのだ

そして美少年より気がかりなのが
酒の神ディオニュソスや牧神パーンの存在だ

シュリンクスを追う牧神パーン(パン)だが
怪物テュポン(テュポエウス)から逃れるのは
酒の神バッカス(バッコス)で
アポロンの竪琴と競って葦笛を演奏したのは
獣神(サテュロス)のマルキュアスで
ミダス王の願いを叶えるのは
獣神(サテュロス)のシレノスだ

ローマ時代にはディオニュソスは
完全にバッカスに取って代わられたのか?
それともヘルメス→メルクリウスや
アプロディテ→ウェヌスのように
呼称の変化だけだろうか?

トロイ戦争の話は巻12~13を中心に収録されてて
巻11にはアキレウスの両親の話や
トロイのプリアモス王の嫡男アイサコスの話が
巻14にはアエネーアース(アイネイアス)の
新しいトロイ建国への出航と
オデュッセウス等ギリシア勢の帰国譚があり
特にヘクトルの死後(『イリアス』以降)に詳しい

またアキレウスを養育した
ケンタウロスのケイロンの過去についてまでも
巻2にあったりして
トロイ戦争関連の記述は充実してるね^^

惜しむらくは
ヘラクレスの凶暴なドSからMへの
転身の話がなかったコトだが
この逸話はもっと後世に作られたのかもしれナイな

それにしてもタイトルから予想される通りに
何かに変身(転身)した話に
限定されて載ってるはずなのに
ギリシア神話の殆どを網羅してるってコトは
どれだけギリシア神話では
変身が日常化されてるんだろうか(゚ ゚;)

ところで自分の愛用してる世界史用語集には
【転身譜】と邦題がついてるが
岩波文庫のタイトルが【変身物語】なのも
ちょっと残念な気がするのだ
【転身譜】の方が好ましい・・・ホゥ(*-∀-)