風に揺れる葦

モーパッサンは『Maison Terrier(メゾン テリエ)』で
お祝いに集まってきた人々を

そよ風にゆらぐ葦

と表現してて
原文のフランス語では次のようにあった

comme des roseaux sous la brise

comme:~のような
roseaux:葦
brise:弱い風(通常の風は vent で brise はそれより弱い風)

vent では喧噪の只中の群衆のようで
モーパッサンにしてみれば
お祝いにかけつけた人々の心情に相応しく
brise としたのではなかろうか?

河盛好蔵の訳が「そよ風」なのも美しい

これとは逆に
混雑した中で押し合いへし合いする群衆を

風に揺り動かされる芦(あし)のやうに揺られながら

と表現してるのは
トマス・ハーディの『Far From the Madding Crowd』で
上記の訳は昭和初期世界名作翻訳全集『遥かに狂乱の群を離れて』で
訳者は英文学者宮島新三郎だが
邦題は『遥か群衆を離れて』が一般的で
映像化作品の邦題もこれだった

原文の英語は未確認なれど
タイトルの『Far From the Madding Crowd』からして
ユダヤ人に言わせれば
「荒野の葦原より遠のいて」か?!

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頑丈な樫の木が何があってもびくともせずと自信満々で
鳥が留まったり風が吹いたりしただけでたわんでしまう葦を
冒頭では憐れんでるのだが
最期には暴風によって
葦はいつものようにたわんだだけだったが
樫は根こそぎ倒れてしまった

と、そんな話が
ラ・フォンテーヌの寓話の『樫と蘆(あし)』だが
これもパスカルの【考える葦】と発想が似てて
葦の弱さをわざわざ樫と比べてみて
でも実際には樫よりも強かったとしてるなんて
その手法の巧みさも比肩するね

ところでラ・フォンティーヌの寓話は
各社から出版されてるが
挿絵がギュスターヴ・ドレなので
自分はこれを購入した

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それにしても葦、蘆、芦、葭・・・と
葦の字は色々あるるる~